不動産トラブル

自殺等の事故物件の告知義務について(国土交通省:ガイドライン)

不動産取引では、取引の対象となる不動産にまつわる嫌悪すべき歴史的背景がある場合には、いわゆる心理的瑕疵があるといわれ、特に住宅用の不動産において、過去に他殺、自死、事故死など、人の死が発生した場合には心理的瑕疵が発生するか問題となっていました。心理的瑕疵があるという場合には、売主・貸主は、把握している事実を、取引の相手方に告知する必要があります。宅地建物取引業者が売主の場合や媒介又は代理を行う場合には、宅地建物取引業者は宅地建物取引業法上の義務として告知する必要があります。

もっとも、心理的瑕疵は、買主や借主の個々人の内心に関わる事項で、他殺、自死、事故死などの人の死に関する事案をどの程度嫌悪し、契約するかどうかの判断にどの程度の影響を与えるかは、当事者ごとに異なります。そのため発生した事案が告知すべき事案なのかどうかの判断が困難であり、宅地建物取引業者によって対応が異なり、萎縮的に人の死に関する事案を全て告知しているケースもありました。その結果として、単身高齢者の入居が敬遠されるという社会的な問題にまで至っておりました。国土交通省は、令和3年10月、自殺などの人の死に関する事故が発生した不動産を賃貸・売買するにあたり、宅地建物取引業者が告知すべき事案・内容・範囲・調査義務についての基準となるガイドラインを策定しました。

概要は次のとおりです。

1.居住用不動産内で、他殺、自殺、火災などの事故死(2を除く)が発生した場合には、借主・売主に告知する必要がある。
2.事故死であっても、自宅の階段からの転落や、入浴中の転倒事故、食事中の誤嚥など、日常生活の中で生じた不慮の事故死は、告知する必要がない。
3.居住用不動産内で、老衰、持病による病死などの自然死が生じた場合は、告知する必要はない。
4.自然死や日常生活の中での不慮の事故死であっても、死後、長期間発見されず、特殊清掃が行われた場合は告知する必要がある。
5.上記1.4の事故は、居室で発生した場合のほか、ベランダ等の専用使用が可能な部分のほか、共用の玄関・エレベーター・廊下・階段のうち、買主・借主が日常生活において通常使用すると考えられる部分で発生した場合にも告知する必要がある。
6.隣接住戸や前面道路やオフィス用不動産は本ガイドラインの対象外である。
7.告知が必要な場合には、事案の発生時期、場所、死因(不明である場合にはその旨)を告知する。
8.告知期間は、概ね3年間。
9.宅地建物取引業者の調査義務は次のとおり。
  ①事故が生じたことを疑わせる特段の事情がないのであれば、自発的な調査義務まではない。
  ②売主・貸主又は管理業者に照会した場合に、事案の有無・内容が不明との回答があった場合又は回答が無い場合には照会行った事実で調査は足りる(重大な過失がある場合を除く)。
  ③売主・貸主・管理会社以外に自ら周辺住民に聞き込をしたり、インターネットを調査するなどの自発的な調査をする義務はない。
  ④自発的な調査をする場合であっても、インターネット記事は正確性の確認が難しいこと、遺族のプライバシーに対する配慮が必要であること。

今回、公表された指針は、近時の判例や取引実務等に基づいて取りまとめられた基準であり、裁判実務上も重要な意義を有すると考えます。