不動産トラブル

賃借人が行方不明の場合の残置物の処理 (大阪高裁 令和元年(ネ)第1753号、令和2年(ネ)第1891号 令和3年3月5日判決)

賃借人が行方不明の場合に、賃貸人が賃貸借契約を解除し、残置物を撤去して建物の明渡しを実現するためには、時間と費用を要します。
賃借人を検索し、訴訟を提起して強制執行手続により明渡しを受ける必要があり、1年程度を要し、訴訟費用・強制執行費用を要します。
旧民法下の連帯保証人の場合には、その期間の滞納賃料についても支払い義務を負うため、連帯法相人が過酷な状況におかれるという問題がありました。

そうした社会情勢の中で、家賃等債務保証会社が賃貸借契約書に以下の条項を定めました。

  1. 家賃等債務保証会社に賃貸借契約を無催告解除する権限を付与する趣旨の条項
  2. 家賃等債務保証会社が無催告解除権を行使することについて、賃貸人及び賃借人に異議がない旨の確認をさせる趣旨の条項
  3. 家賃等債務保証会社が賃借人に対して事前に通知することなく保証債務を履行することができるとする条項
  4. 家賃等債務保証会社が求償権を行使するのに対し、賃借人及び連帯保証人が賃貸人に対する抗弁をもって家賃等債務保証会社への弁済を拒否できないことを予め承諾する条項
  5. いまだ賃借人が任意に退去していないにもかかわらず、賃貸人や家賃等債務保証会社に法的手続によらない建物明渡しを可能にし、これに対する賃借人の損害賠償請求を認めない趣旨の条項

これに対し、特定非営利活動法人消費者支援機構関西は、上記条項が、消費者契約法8条1項3号又は10条違反となると主張して条項の使用差止を求める訴訟を提起したところ、大阪高裁判決(令和元年(ネ)第1753号、令和2年(ネ)第1891号 消費者契約法12条に基づく差止請求控訴、同附帯控訴事件 令和3年3月5日 判決)は、家賃等債務保証会社の用いていた条項をいずれも有効と判断しました。
大阪高裁の判断は、上記社会情勢を受けてのものと考えます。
本判決で有効とされた上記の条項は、基本的には家賃債務保証会社が主体となる条項ですが、個人の連帯保証人の条項として用いても有効性の判断に大きな差はないと考えます。
その理由としては、個人の連帯保証人の方が、家賃債務保証会社より零細であることが多く、社会的にみても保護の度合いが高いことが考えられます。

上記判決の後に、賃借人が死亡した場合の残置物の撤去に関して、国土交通省と法務省が、令和3年6月に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しております。
同モデル契約書の内容は、基本的には上記判決と同じ考え方です。

上記判決で有効とされた条項と「残置物の処理等に関するモデル契約条項」のいずれを参考にするにせよ、契約条項の見直しは必要となります。
条項の見直しを検討されている賃貸事業者様・家主様におかれましては、ご相談下さい。